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高さ:11.5 cm 幅:12.8 cm
本作は、丹波立杭の俊英・市野年成様が手掛けられた陶胎漆器の香炉でございます。柔らかな卵形の胴部を包むのは、翡翠を思わせる淡青緑の青瓷釉(せいじゆう)。その上に据えられた蓋は、赤土胎に漆を施して磨き上げた飴色の艶を湛え、数多の透かし孔が香煙のための舞台を用意しております。まさに**「土・釉・漆・香」**の四元素が響き合う、静謐かつ幽玄な香炉でございます。
胴部:青瓷釉はわずかに青磁特有の貫入を含み、光を受けて乳白から淡碧へと移ろいます。厚めに掛けられた釉が溶融する際、胎土中の鉄分と結合して淡い灰緑を呈し、古代越州窯や龍泉窯を彷彿とさせる幽玄の色相を現出いたしました。
蓋部:赤土胎に透き漆を三度塗り重ね、研ぎと摺りを繰り返したことで、飴色の飽和した光沢が生まれました。透かし孔は滴型・楕円型・円型を組み合わせ、香煙がまるで立ち昇る霧雨のように柔らかく拡散いたします。青瓷釉の冷ややかな色調と、飴漆の温かな色調が互いを引き立て、視覚的にも触覚的にも高低差のあるハーモニーを奏でております。
成形と素焼き
地元丹波の鉄分を多く含む赤土を用い、左回転蹴りろくろで胴を挽き、三方に切り出した三足を付設。800 ℃前後で素焼きし、釉薬の密着性を高めます。
釉掛けと本焼き
木灰を主成分とした青瓷釉をやや厚掛けに施し、登り窯で1,280 ℃の還元焚き。炉内の還元気流が鉄分を還元させ、青磁特有の青みを実現いたしました。
漆下地と塗り
素焼き蓋に砥粉・生漆で下地を作り、透き漆と木地呂漆を交互に計四度塗布。合間に炭研ぎを行い、平滑かつ鏡面に近い艶を確保。
透かし彫り
半乾きの段階で錐と印刀を用いて透かし孔を穿ち、炭研ぎでエッジを滑らかに整形。推敲を重ねた孔配置が香の流速と拡散角を最適化いたします。
わずかに張りのある胴と控えめにすぼまった口縁は、青瓷の静けさを湛えた「水滴」を象徴いたします。一方、蓋の透かし孔は蓮の実を思わせる蓮実文(れんじもん)。泥より出でて芳香を放つ蓮は「清浄」「悟り」のシンボルであり、香煙が孔から立ち昇る情景は、まさに極楽浄土を可視化したかの如き趣でございます。三足が生む陰影が、香炉全体にさらなる軽やかさと安定感を付与しております。
・香道具として:沈香・伽羅を焚けば、透かし孔から柔らかく漂う香煙が青瓷の淡い光沢に滲み、視覚と嗅覚が交差する豊饒な時間を演出いたします。
・インテリアとして:和室の床の間はもちろん、洋室のサイドボードでも映えるミニマルな佇まい。LEDライトで下から照らすと三足の隙間から青瓷釉が仄暗く発光し、幽玄な陰影が生まれます。
・経年変化:漆面は年月とともに透明度と照りが増し、青瓷釉の貫入には香煙の微粒子が染み込むことで味わい深い色調へと熟成いたします。
青瓷釉 × 陶漆 × 三足造形という三位一体の意匠は市場流通がきわめて限られ、年成様の初期代表作群に位置付けられる一点でございます。実用美術工芸のコレクションにおいても、学術的・美術的価値ともに高い評価を得ることでしょう。
「青瓷釉陶漆香炉 市野年成様」は、翡翠色の静謐と飴漆の温もり、そして香煙の揺らぎを一器に封じ込めた珠玉の逸品でございます。香を焚くひととき、あるいはただ眺める瞬間――その都度、新たな陰影と芳香が立ち現れ、日常の空間を幽玄なる香世界へと誘ってくれるでしょう。どうぞお手元に迎え、“美意延年”の精神とともに、時を超えて育つ風合いをゆっくりとご堪能くださいませ。
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